カンボジア:農村部での識字率アップに貢献

2013.10.01 Field Report

カンボジアで活動するNPO/NGO等15団体にソーラーランタンを寄贈してから約1年がたった2013年3月。私たちは現地での活用状況の視察に向かいました。農村部では、ランタンを使って夜の識字教室が開かれ、識字率の向上に一役買っていました。

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こんにちは。CSR・社会文化グループの星亮です。

パナソニックが2012年3月、カンボジアで活動するNPO/NGO等15団体にソーラーランタンを寄贈した際(プレスリリース)、私も担当としてその場にいました。それから約1年がたち、ソーラーランタンがどのように活用されているかを確かめるために、2013年2月下旬から3月初旬にかけて、カンボジアを訪問してきました。その時の様子をレポートしていきます。

カンボジアの不安定な電力供給事情

近年、目覚ましい経済成長を遂げているカンボジアですが、生活のためのインフラはまだ十分に整備されていません。とくに電化率(全世帯の何割に電気が供給されているか)は、カンボジア全土で24%と、アジアではミャンマーと東ティモールに次ぐ低さです*1。地方の農村部では13%*2にとどまります。

そんなカンボジアの無電化地域で、パナソニックのソーラーランタンがどのように利用されているのでしょうか? 私はまず、「ASACカンボジアに学校を贈る会(以下、ASAC)」の識字教育の現場へと向かいました。

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左: 寄贈式の模様(2012年3月) / 右: 寄贈したソーラーランタン

カンボジアでは、なぜ電化率が低いの?

カンボジアでは、主要都市、地方都市、農村がそれぞれ独立した小規模電力網でつながれていて、全国や地域間を繋ぐ電力網が存在しません。国内の発電所・発電機の規模が小さいため発電コストが高いこと、また、タイ、ベトナム、ラオスといった近隣諸国から電力を輸入していることが原因で、電気料金は近隣諸国と比べて高くなっています*2

いざ、チューンプレイ村へ

首都プノンペンから車で2時間。乾季のため埃っぽい田んぼの中で、牛が草を食むのどかな光景が広がります。

この地域の家屋は、雨季の洪水への対策でみな高床式になっていますが、コンクリートの立派な家もあれば、藁葺きの貧弱な家もあります。この辺りでは、道路沿いに電気が通っている地区も一部ありますが、電気料金は首都プノンペンの約2倍もするため、多くの貧しい人は電気を利用することができません。

パナソニックが持っている技術で、現地の人々の生活に十分貢献できているのか...。

不安と期待を胸に、ASACのコーディネーター浦田富貴美さんに連れられ、コンポンチャム州バティエイ郡チューンプレイ村に到着しました。

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左: チューンプレイ村ののどかな田園風景。 / 右: この地域では雨季には洪水が頻繁におこるため、高床式の家を建てる。

人々の自立と尊厳につながる識字教育プログラム

ASACは、この村で半年ごとに対象地区を変えながら、小学校4年生レベルまでの内容を教える識字教育を行なっています。

カンボジアでは、識字率の低さが、農村地域での経済成長を阻む課題のひとつとされています。ASACは、識字教育の教師に対して報酬を支払います。まさに、NGOが政府に代わって国づくりの重要な役割を担っているんですね。

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国の発展のためには人々が読み書きできることが不可欠」と語る、識字監督のブン・ペインさん。1995年から約20年近くにわたり、熱い思いを持って識字教育に取り組んでいる。

授業は、日曜・祝日を除く週6回、毎晩6時から8時まで。

チューンプレイ村の識字教室の生徒は全員が女性で、年齢層は予想していたよりも高く、20代は1人、30代が数人、40~50歳代が十名強といった感じです。授業では、教科書を使っての読み書き学習とともに、簡単な計算問題も行なわれます。

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識字教室の会場。天井からはソーラーランタンが吊り下げられている。

カンボジアの識字率が低い理由

1970年代後半のポル・ポト政権時代、学識者や教育者が数多く虐殺され、国民の教育機会が奪われたことが大きく影響しています。2008年の国勢調査によると、全国の識字率は約78%(896万人)ですが、都市部の約90%に対して農村地域では約75%*3。識字率の低さが農村地域の貧困と関係していることがうかがわれます。

識字教室で活躍するソーラーランタン

夕方6時過ぎ。日が沈み、夜の帳が下りました。屋外灯のない村の夜は、都会の明るい夜に慣れた身にとっては、とても暗く感じられました。

授業の開始時間になり、あちらこちらからソーラーランタンを持った生徒さんたちが集まってくると、暗かった教室が、勉強をするのに十分な明るさに。普段見慣れているはずのソーラーランタンの明かりが、とてもまぶしく感じられました。

雨水やほこりから守るためにビニールをかけたり、持ち運びしやすいようにひもをつけたりするなど、みなさんソーラーランタンを大切に使ってくださっていて、とてもうれしい気持ちになりました。

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暗闇の中、ソーラーランタンは非常に明るい光を放ちます。
活発な質疑応答があり、終始にぎやかな雰囲気で授業は進みます。

識字教室では、生徒である成人女性に混ざって、その子どもたちも一緒に勉強をしていました。

「孫に読み書きを教えて、知識ある人間になって、素晴らしい将来を生きてほしいです。知識があれば、将来、田畑がなくても困らないですから」

「子どもが勉強でわからないことがあっても、今は教えることができるのでうれしい」

親が読み書きできると、本人の自立と尊厳につながるとともに、子どもや孫たちへの影響も大きいと考えられます。ソーラーランタンは、各家庭の生活のさまざまな場面で利用されていて、子どもの夜間の自習のためにも使われているそうです。

今回、チューンプレイ村の識字教室の現場をこの目で見て、村人の生活の質の向上のためにソーラーランタンが確かに役立っていることを実感しました。

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母親(識字生徒)と一緒に子どもも家で自習をしていました。

ASACでのソーラーランタン活用の様子は、こちらの動画でもご覧になれます。
現地の生の声をぜひお聞き下さい。

  1. International Energy Agency (IEA), World Energy Outlook 2011
  2. ジェトロ・プノンペン事務所 カンボジア・インフラマップ
  3. (日本国)総務省ホームページ 「カンボジア2008年人口センサス確報結果報告書全国編 統計表」