5年間の軌跡とこれからに向けて

2018.01.30 News

2013年に開始した「ソーラーランタン10万台プロジェクト」は、2018年1月のインドネシアへの寄贈で、目標の10万台を達成しました。プロジェクトリーダーの浅野と、最終年にチームに参加した若原が、10万台到達までの道のりを振り返りました。

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なぜパナソニックがソーラーランタンを届けるのか?

若原: ソーラーランタンの寄贈も、いよいよ目標の10万台に到達しましたね。私がかかわったのは最終年からでしたが、これまでにさまざまな苦労があったと思います。

浅野: 10万台に至ることができたのも寄贈先団体の方々をはじめ、社内外の多くの方々のお力があってこそです。この場を借りて改めて御礼を申し上げたいと思います。パナソニックは創業以来、本業を通じて社会の発展に貢献するという経営理念の下、より良いくらしの広がりを追求してきました。「ソーラーランタン10万台プロジェクト」は、あかりというパナソニックが最も得意とする分野で、そうした経営理念を体現する企業市民活動(社会貢献活動)の一つとして、2013年にスタートしました。

若原: ソーラーランタンはこのプロジェクトのために開発されたのですか。

浅野: ソーラーランタンの歴史は2006年まで遡ります。当時のウガンダ共和国の副大統領府大臣から、ケロシンランプによる健康被害の解決に協力してもらえないかと要請をいただいたことがきっかけです。来日の折に当社のソーラー施設を見学した大臣は、我々が持つ創エネ・蓄エネの技術が無電化地域の課題に役に立つと思われたようです。そこで、これらの技術を活用した製品開発に取り組みました。

若原: それがソーラーランタンの誕生につながったわけですね。

浅野: その後、アフリカ諸国やアジアでNPO/NGOや国際機関と連携しながら、ソーラーランタンの寄贈に取り組み始め、現地のニーズを反映して少しずつ改良していきました。世界を見渡すと、私たちが享受している便利さが「当たり前」でない地域が、まだまだあります。2017年時点で、電気のないくらしを送る人々は世界でおよそ13億人。あかりを無電化地域に届けることで社会課題の解決に貢献しようと本格的に始まったのが、「ソーラーランタン10万台プロジェクト」です。

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アフリカにおけるソーラーランタンのニーズは極めて高く、あかりの基本性能に加え、携帯電話の充電機能が求められます。中国製品が低価格を武器に市場を席巻している中、当社は高品質の電池を使用して、容量と商品寿命の点で差別化を図りました。さらに高容量のソーラーストレージも開発し、無電化地域のニーズに応える製品開発に取り組んできました。(商品チーム・谷川 龍一郎)

若原: このプロジェクトは、2015年9月の国連サミットで採択された、国際社会の共通目標である「持続可能な開発目標(SDGs)」にも合致しますね。

浅野: パナソニックの企業市民活動における中期重点テーマは「共生社会の実現に向けた貧困の解消」ですが、SDGsでも17目標の1つめに貧困の撲滅を掲げています。「貧困」とは、単に経済的に困窮していることではありません。教育や仕事、保健医療など、人が生きる上で基本的なモノやサービスを手に入れることができない状態のことです。ソーラーランタンのあかりを届ける活動を通じて、こうしたモノやサービスにアクセスするさまざまな機会を創出することを意図しています。

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途上国市場に向けて開発されたソーラーランタンは、自社技術の強みを活かして人々の生活向上に資する画期的な製品でした。渉外部門として、国際機関や各国政府機関からの認知を高め、さまざまな支援を獲得することで将来の会社のあるべき姿を目指して取り組んだ事業の一翼を担えた事を誇りに思います。(国際渉外・堀田 隆之)

"あかり"が人々のくらしにもたらしたもの

若原: 夜あかりがあれば、勉強をすることも、安心して治療を受けることも、より長く仕事をすることもできるようになりますね。このプロジェクトに関わり始めて、あかりが持つ影響の大きさを実感しました。

浅野: 単にソーラーランタンというモノを届けてきたわけではなく、1台あたりの効果を最大化できるように、公共施設など、できるだけ多くの人が利用する場所に届けることを意識しました。効果的に使っていただけるよう、寄贈先も自分たちで開拓し、各団体と継続的にやり取りをしています。現地の方の理解の獲得と信頼関係を築くには、直接コミュニケーションを取ったほうがいい。われわれもきっちり関わることで、寄贈先団体の皆さまと一緒に社会課題の解決に取り組むことを目指してきました。

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プロジェクトのキックオフとなる第1回目の寄贈は、2013年2月のミャンマーでした。行ったことがない国で、当時はパナソニックの日本人駐在員もおらず不安もありましたが、現地スタッフや代理店幹部、また寄贈先候補団体代表と顔を合わせて話をしながら準備を進め、理解の獲得と信頼関係の構築に努めました。寄贈式典でミャンマー赤十字社社長から感動的なスピーチをいただいたことがよい思い出です。上記は2回目の寄贈時に僧院を訪れた際の写真です。(プロジェクトメンバー・星 亮)

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主にアフリカ諸国へ寄贈を担当してきました。アフリカ諸国は日本からは距離があるため、ソーラーランタンの輸送には大変なことも多く、特にエボラ出血熱対策用としてリベリア他2ヵ国に寄贈した際には、必要とする施設へ一刻も早くお届けできるよう努めました。写真は、2016年のエチオピアIOMへの寄贈式典のものです。(プロジェクトメンバー・田中 典子)

若原: 残念ながら私は現場に行くチャンスがなかったのですが、プロジェクトメンバーは皆できるだけ寄贈先を訪れるよう心がけていますよね。

浅野: 実際に目で見て、耳で聞くことで、人々が抱える課題を理解することができますからね。寄贈の効果を実感する上でも、現地に足を運ぶことはとても大切です。効果については、あかりがもたらした変化の大きさを客観的に把握するために、定量的なインパクトの測定にもチャレンジしました。

若原: 成果の「見える化」ですね。

浅野: 寄贈先団体のミッションに寄り添う形で、ソーラーランタンによるインパクトを追跡することを目指しました。寄贈先の団体や地域が膨大であること、さまざまな用途に利用されていること、都市部から遠く離れた寄贈先コミュニティに頻繁に通うことができないことなどの理由から、プロジェクト全体で統一した精緻なデータを取るところまではできなかったのですが、個別にはさまざまな効果を確認できています。

若原: 具体的には、どのような事例があったのでしょうか。

浅野: たとえばミャンマーでは、2015〜2017年の2年間に、夜明るい光の下で2,434人の赤ちゃんが誕生しました。ソーラーランタンがなければ、母子ともに安全なケアが受けられなかったかもしれません。インドでは、農村の女性たちが刺しゅうの手仕事をするのにソーラーランタンが役立っています。 手元が明るくなったことで作業効率が上がり、月収が1000ルピーほど増えた女性もいます。世界中に届けたソーラーランタンのあかりの下では、課題解決と人々のくらしの向上につながる数多くのストーリーが生まれています。

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無電化地域に暮らす人々が抱える課題と、ソーラーランタンの効果を確認するために、インドやインドネシアで家庭を訪問して話を聞いて回りました。思いっきり勉強ができるようになったと話してくれた子ども。仕事も家事もしやすくなったと笑顔で答えてくれたお母さん。一台一台のあかりが、確実に人々のくらしの向上につながっていることを感じました。(プロジェクトメンバー・奥田 晴久)

国内外に広がった寄贈の輪

若原: プロジェクトを通じて、さまざまな広がりも生まれましたね。

浅野: これまでアジア諸国やアフリカのサブサハラ地域など、30カ国・131団体・機関にソーラーランタンを届けてきました。当初は自分たちで寄贈先団体を開拓しなければなりませんでしたが、活動が徐々に知られるようになり、寄贈してほしいというお申し出も多くいただくようになりました。2017年には寄贈先団体を公募したところ、ハイチ、ルワンダ、モーリタニアなど、これまでアプローチできていなかった地域への寄贈が実現しました。

若原: 「寄贈してほしい」ではなく、「寄贈したい」というお申し出もありましたね。

浅野: たとえばミャンマーでは、マレーシア最大の銀行メイバンクから農村部の無電化地域にソーラーランタンを寄贈したいとの申し出をいただきました。またミャンマー国営郵便・電気通信事業体(MPT)からは僧院学校に対して当社の小型蓄電システム「エネループ ソーラーストレージ」が寄贈されました。その他にも、国内企業とNGOとの協働プロジェクトでソーラーランタンを活用いただいた例や、地方自治体が共感して参画してくださった例もあります。こうして当初の枠を越えて、ソーラーランタンの寄贈の輪が世界に広がっていることをうれしく思っています。

若原: 世界中からランタンのシェードデザインを募集したプロジェクトも印象的でした。

浅野: 「Cut Out the Darkness」のことですね。世界中のみなさんからデザインを募集し、投票によって選ばれた計200作品をランタンシェードへと加工し、ソーラーランタンとともに無電化地域に寄贈しました。より多くの人に無電化地域の問題について知っていただきたいと考え、取り組んだプロジェクトです。

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Cut Out the Darknessは、ランタンシェードに施す絵を世界中にネットで公募し、そのシェードをランタンとともに届ける活動です。この活動を通じ、それまで無関心だった方々には、無電化のくらしが深刻な問題をはらんでいることを知ってもらうよい機会となり、また、電気のないくらしをしている方々には、「あなたを世界中の人たちが応援しているよ」というメッセージを届けることができました。絵は国や言語の違いを超えて人々を繋ぐ力があることを実感しました。(Cut Out the Darkness仕掛け人・次田 寿生)

「点」から「面」へ、さらなる広がりに向けて

若原: 目標の10万台を達成しましたが、これでこのプロジェクトは終わりなのでしょうか。

浅野: 世界では依然多くの方が電気のない生活を強いられています。この活動が、今後は更なる広がりを生むことを目指し、無電化地域の課題解決に自分も何かしたいと考える従業員や一般の方々と一緒に、クラウドファンディングを利用してソーラーランタンを寄贈するという案など、新たな展開を考えています。

若原: 規模が大きくなることで、コミュニティ全体により大きな効果が見込めそうですね。

浅野: 寄贈する主体も、寄贈先での活用も、「点」から「面」へと広がりを作っていきたいと考えています。そして、あかりをはじめとした当社の技術と商品を届けることで、無電化地域で生活する人々のくらし向上に少しでも寄与できればと思います。

若原: われわれ社員一人ひとりも、もっと積極的にかかわれる仕組みにできるといいですね。私も精一杯取り組んでいきます。