開発の専門家が語るソーラーランタンの可能性:UNDP西郡氏との対談

2013.12.28 Our Partners

「明かり」が無電化地域の人々の生活向上に果たす役割や可能性はどこにあるのか―ソーラーランタンの開発初期からアドバイスをいただいている国連開発計画・駐日代表事務所の西郡俊哉さんにお話を伺いました。(対談日:2013年11月8日)

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MDGs達成に向けた、開発支援の現場と日本企業との橋渡し

田中:本日はお時間をありがとうございます。まずは、西郡さんのお仕事についてお聞かせいただけますか?

西郡:私は、国連開発計画(UNDP)の駐日代表事務所において、広報とパートナーシップ構築を担当しています。UNDPは、国連システムのグローバルな開発支援機関として、人々がより良い生活を築くために各国が知識や経験、資金にアクセスできるよう支援する国連機関です。特に2015年までに貧困を半減することを柱としたミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向けて、グローバルおよび国内の取り組みを結集し、調整する役割を担っています。

民間企業とのパートナーシップ構築では、途上国の開発に寄与する日本企業の製品や技術を見つけ、各国のUNDP事務所に紹介し、両者のコミュニケーションをサポートしながら契約までの橋渡しをすることなどを担当しています。

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トータル・エネルギー・ソリューションとして魅力を感じた寄贈プログラム

田中:UNDPさんには、ソーラーランタン10万台プロジェクトが始まる以前から様々なご協力をいただいています。タンザニア連合共和国で実施されているミレニアム・ビレッジ・プロジェクトに、2011年4月にソーラーランタン1000台を、同10月にライフイノベーションコンテナ(20フィートのコンテナにソーラーパネルを搭載した独立電源システム)を寄贈しました。

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ソーラーランタン寄贈式の様子

西郡:そうでしたね。寄贈されたソーラーランタンは、ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトの対象地域であるムボラ村で、その共同貯蓄組合(SACCOS)を通じて、低価格で分割販売されました。人々が援助に依存せず自立することが重要という、現地の判断によるものです。

田中:最初の接点は、当時の三洋電機でソーラーランタンを担当するものが、その第一号機の開発にあたり、明かりによる教育機会の創出など社会的な影響に関する調査や、現地での持続的なビジネスモデル構築について、ご相談に伺ったことに遡ります。
タンザニアへの寄贈は、国際社会の一員としての責務を果たし、1968年より現地で工場を操業している特別な国に対し、MDGs貢献につながる活動が何かできないかと考え、ご相談した経緯があります。UNDPさんであれば、中立性、公平性があり、日本から遠いアフリカとのプロジェクトで信頼ができるパートナーになっていただけると感じました。

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西郡:当時は、UNDPとしても、開発途上国の課題にビジネスを通じて寄与してもらえる企業を探し始めていた時期でした。お話を伺った際、ソーラーランタンが開発支援でも必要とされる製品である点や、ビジネスを通じた貢献を他社に先駆けて考えている点が大変興味深く、早速具体的な連携策について協議を始めました。
アフリカは私たちにとってのメインフィールドの一つですが、その頃は、特にビジネス的な関心を持たれる日本企業はほとんどなかった印象があります。そうしたなか、ソーラーランタンの最初の寄贈先を無電化地域に暮らす人口が多いアフリカにしたのは、目的にあったものだったと思います。

また、ライフイノベーションコンテナとソーラーランタンを組み合わせ、トータル・エネルギー・ソリューションの可能性を探る目的も魅力的でした。 ソーラーパネル、照明などを、地域や村ごとに寄贈することはそれまでもありましたが、多様なエネルギーニーズに応える基地局と、エネルギーを利用するアプリケーションの双方を同時に提供する試みは興味深く、それが現地の所得向上、教育や保健といった側面にどのようなインパクトを及ぼすことができるのか、非常に関心がありました。

実践の積み重ねから摘みとる「本質的な学び」

田中:寄贈後、私が実際に現地を訪問すると、想像以上の反響に驚きました。ソーラーランタンについては2台購入されている方もいて。一つはセキュリティ対策を兼ねた室外灯として、もう一つは家の中で料理をするときや、子どもたちが勉強するときに使っていました。「今何がほしいですか?」と質問すると、「もう一台ソーラーランタンが欲しいです」という回答も聞かれました。また、ライフイノベーションコンテナについても、「電気は貯めることができ、好きなときに自由に使える」というのを知っていただくきっかけになったようです。

寄贈して終わりとするのではなく、その後も継続的に現地を訪問して、人々の生活改善のためにさらに何ができるか、というところが大事だと考えており、引き続きフォローアップしている状況です。

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寄贈した1年半後に現地を訪ね、利用状況を調査しました。

西郡:プロジェクトの成果が出るまでには時間がかかりますし、成果にはさまざまな捉え方があります。新しい地域で、新しい技術で、新しいアプローチをするということは、結局受け入れ先にとっても、贈った側にとっても、仲介した我々にとっても初めてのことなので、すべてが学びのプロセスですよね。

成果については、事前に現地の人とともに想定することができればよいですが、具体的に出すことは難しい部分もあります。それは、我々が「乗ったことがないスペースシャトルについて語りなさい」といわれるようなもの(笑)。使っているうちに、少しずつ「なんか、生活が変わってきたかも」という反応が出てくるものだと思います。 その意味では、「何を学習したいのか」ということを事前に考えておけるとよいかもしれません。そして、短期間で成果を判断するのではなく、粘り強く中長期にわたって続けていくことがやはり大事なのだと思います。

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MDGs達成に向けて高まる「再生可能エネルギー×明かり」への期待

西郡:「明かり」は、先進国や日本では「便利/不便」の感覚ですが、途上国にとっては、命や教育の問題であったり、健康や所得の問題であったりと、とても大事な基礎的なサービスの一つです。

開発支援を進める上で、あるいはMDGs達成を目指す上で、明かりは極めて重要な技術であり製品であり、教育、保健、環境、貧困削減、この全てに効果があると言われています。女の子たちがお母さんのお手伝いで日中は学校に行けなくても、夜明かりがあれば勉強ができる。妊産婦が亡くなる時間帯は夜間が多いのですが、明かりがあれば真っ暗闇の中で危険が伴う手術を避けることができる。環境においても、ソーラーランタンを利用すればケロシンランプで問題になっている大気汚染や健康被害もないですし、火事や災害にも強い。
「ソーラーランタン10万台プロジェクト」は、MDGsの達成に貢献するプロジェクトの一つになることは間違いないでしょう。

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田中:無電化地域における明かりの問題に対して、国際社会の関心はどう高まってきているのでしょうか?

西郡:この数年で特に「明かり」と「再生可能エネルギー」に焦点を当てた取り組みが国連でも始まっています。2012年は「すべてのひとに持続可能エネルギーを(Sustainable Energy for All)」というスローガンで、全ての人々にとっての持続可能エネルギーの国際年と定められました。国連事務総長の潘基文(パン・ギムン)氏も「途上国における再生可能エネルギーの普及」と、「政府だけでなく民間企業の参画」、これをなくしてMDGsや他の開発課題の達成は難しいと述べています。そうした文脈においても、ソーラーランタンという製品は国際社会の要請に応えるものであり、期待も大きいと思います。

開発現場と企業、双方にとって意義あるプロセスとは?

西郡:開発における民間企業の参画は、今二つの流れがあります。一つは企業の社会貢献。もう一つは、国連の中でも注目を集めている、コアビジネスを通じた貢献。企業の持つ技術、人材、製品、資金を使って、事業の一環としても捉えられるような枠組みで貢献していくというものです。

ソーラーランタンについては、まさにこの両面から広げていけるというところも、非常にユニークかつ期待されるところです。うまく企業市民活動とからめながら、経験をつんで、成果を着実にあげながら事業としても組み立てていくアプローチがあっていると思います。

大切なのは、小さくても早く始めるということです。「成果の指標をどうする」といった話で身動きがとれなくなるところも多い状況において、とにかく苦労してでも入っていって、そして実践しているのは価値があることです。

田中:今後企業市民活動としては、2018年までに10万台を、アフリカ、南アジア、東南アジアのメコン圏といった地域を中心に寄贈していきます。アフリカではケニアは国がケロシンフリープログラムの政策を打ち出しており、私たちとしても特に力をいれていこうと思います。パートナーとしては、アフリカでは国際機関、アジアでは保健や教育で活動しているNGOと連携していきたいと考えています。

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西郡:社会貢献活動と事業活動を組み合わせて展開していくうえで、大事なのは現地をよく知るパートナーとの連携と経験の蓄積だと思います。製品であればまずはそれを必要とする人々に使ってもらい、双方が使い方を学習し、その効果も見えてくる。そして必要な機能がわかり、適切な価格や販売方法がわかり、買う人が増える。企業による途上国支援では、ともすると、純粋な寄付にすべきだとか、儲けなきゃだめだといった声もありますが、どっちかがいいというような、単純なものではないと思います。

今年6月に横浜で開かれたアフリカ開発会議(TICAD V)のときに、UNDP総裁とユニセフ前事務局長が御社のソーラーランタンを見て、ソーラークッカーも勧めていました。現地では気候変動の影響もあって、調理に必要な薪拾いにかける時間がどんどん長くなっています。ソーラーランタンと同じパネルで充電できるソーラークッカーがあれば、薪拾いに使っている時間を他のことに使うことができるようになります。このように太陽光発電技術をコアに、現地のニーズにこたえるアプリケーションを増やしていくというのは一つの有効なアプローチです。

寄贈先においては途上国でも女性や少数民族など、なかなか声を聞く機会がない人々に届けられれば、このソーラーランタン10万台プロジェクトの価値はさらに高まると思います。

日本企業が持つ底力、社会を変えていく力を、世界に示す模範事例になれると思っています。プロジェクトによって2018年に、どのような変化を人々の生活にもたらしているのか、今からとても楽しみにしています。

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