スマトラゾウと地域住民の衝突防止パトロールでの活用:WWFジャパン

2017.11.10 Our Partners

WWFジャパンでは、インドネシア・スマトラ島の森林保全プロジェクトでソーラーランタンを使っていただいています。担当者の小田倫子さん、川江心一さんに、パナソニックCSR・社会文化部の田中典子が活用の様子をお聞きしました。 (対談日:2017年9月8日)

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「アースアワー」を演出した明かりはスマトラ島へ

田中:WWFさんとは、以前から黄海エコリージョンプロジェクトや南三陸での養殖業復興支援など、さまざまな活動でご一緒させていただいています。

小田:そうですね。昨年の「アースアワー」のイベントにもご協力いただき、ありがとうございました。世界規模の消灯リレーである「アースアワー」は、3月後半の午後8時半からの1時間、世界中の人々が、同じ日・同じ時刻に明かりを消すことで「地球環境をまもりたい」という思いを示すキャンペーンです。

イベントの電力も再生可能エネルギー100%で実施しておりますので、太陽の力で動くソーラーランタンを照明として使うことができ、大変ありがたかったです。使用したランタンはイベント後、インドネシアのスマトラ島に届けられ、森林保全プロジェクトの現場で活用されています。

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アースアワーで展示されたソーラーランタン。2016年のアースアワーサポーターズの書道家 武田双雲さんや横浜F・マリノスのメンバーがデザインしたランタンシェードと一緒に。

持続可能な開発のための教育(ESD)のツールとして

田中:スマトラ島の現状や、森林保全プロジェクトについて教えていただけますか?

小田:スマトラ島は、生物多様性の価値が高く、WWFがグローバルに定める35ヶ所の優先保全地域の1つです。しかし世界的にも速いペースで森林破壊が進んでおり、この30年間で面積は半分以下になってしまいました。WWFでは現地で森を守るプロジェクトを進めており、ソーラーランタンはその一環でおこなっている持続可能な開発のための教育(ESD)で使用しています。

ESDのプログラムでは、WWFの専門家が先生たちと一緒に環境について学ぶカリキュラムを作り、3つの小学校で展開しています。授業では廃材で手芸品や再生紙を作ったり、生ごみのコンポストに挑戦したりしていて、これまで約430人の生徒が受講しました。

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川江:再生可能エネルギーの授業もあって、その教材としてソーラーランタンが活躍しています。子どもたちは太陽光による発電の仕組みを学ぶだけでなく、安全で、電気代がかからない明かりだということも理解します。ソーラーランタンは、教室や図書館に設置されているほか、電気が来ていない家庭などにも貸し出され、おおいに活用されています。

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ソーラーランタンを使った授業の様子

田中:ソーラーランタンが、子どもたちにとって身近な存在になっているのはうれしいですね。パナソニックもESDには力を入れており、出前授業でモノづくりを通じた環境教育に取り組んでいます。途上国での環境教育などで、今後WWFさんとご一緒する機会があればと思います。

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人もスマトラゾウも安心て暮らせるように

川江:もう1つのソーラーランタンの使い道が、住民の夜間パトロールです。森林保全プロジェクトは、国立公園に隣接した数百世帯規模の村で実施しています。住民たちはトウモロコシなどを育てて生計を立てているのですが、畑の目と鼻の先にはうっそうとした森林が広がっています。森にはスマトラゾウが住んでいて、収穫期になると畑を荒らしてしまうんです。ここに来れば好物の食べ物がある、と覚えてしまっているんですね。

スマトラゾウはレッドリストにも入っている絶滅危惧種で、保護の対象です。しかし村人にとっては、生活の糧となる作物を食べ、時には家を壊し、人に危害を加えることもある害獣なんです。そのため、違法とわかっていながら殺してしまうこともあります。そこで、WWFの協力のもと夜間パトロールをはじめました。

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畑の真ん中に建てられたやぐら。村内には11棟のやぐらがあり、ソーラーランタンが一つずつ設置されています。以前は乾電池式のヘッドランプを使っていたので電気代がかなりの出費になっていたそう。

田中:「スマトラゾウを殺してはいけない」と言われて、住民の方々はすぐに理解してくれたのですか?

川江:プロジェクトを始めた2009年当初は、なかなかわかってもらえませんでしたね。森林が急激に減少した結果、動物たちは行き場を失い、人の集落に近づくようになりました。一方で、近隣の住民は生活のために違法な森林伐採を行なっていた人々でもあります。結果、動物と人の距離が近づき、衝突が増えてしまったんです。

こうした状況をふまえ、WWFは人もゾウも安心して暮らせる環境作りに取り組んできました。住民にはただ「殺してはいけない」と言うのではなく、農作物の大切さに理解を示したうえで、花火を使って音を鳴らしたり、唐辛子をすりつぶしてスマトラゾウの糞にまぜて焼き刺激臭を出したりなど、ゾウや周辺環境への影響が少ないやり方で追い払う方法を教えたりしました。また、より高い価値で販売できる有機カカオの作り方を指導し、その後、地元の高級チョコレートメーカーとつなぎ合わせるなどの販売支援もしました。じっくりと対話を重ねて関係づくりをしてきた結果、今ではスマトラゾウと森を一緒に守るパートナーになっています。

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田中:すばらしいですね。ここまでくるのには、きっとかなりのご苦労があったと推測します。夜間のパトロールも大変な労力ですよね。

川江:ゾウが一番好むトウモロコシのほか、米やカカオ、バナナなど年数回ある収穫期の間は、毎晩見張りに立っています。ゾウは毎晩のように現れるので気が抜けません。私もパトロールに同行したことがありますが、夜明けまで一晩中、ソーラーランタンの明かりが役立っていましたよ。

ゾウの被害が減ったことを知った隣の村でも夜間パトロールを始めるようになっています。今後はさらなる普及に取り組んでいきたいです。

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やぐらからの景色。奥には収穫を終えたばかりのトウモロコシ畑が見えます。

小さな明かりが持つ大きな可能性

田中: パナソニックは、ソーラーランタン10万台プロジェクトを通じて「持続可能な開発目標(SDGs)」達成への貢献に取り組んでいます。クリーンなエネルギー(目標7)であるソーラーランタンを通じて、健康な生活(目標3)、質の高い教育(目標4)、ジェンダー平等(目標5)に貢献し、最終的に貧困の根絶(目標1)に貢献することを目指しています。(詳しくはこちら

小田: スマトラ島でのプロジェクトは陸の豊かさを守る(目標15)活動ですが、現地の人々と密に協力しているという点では、パートナーシップ(目標17)による取り組みそのものです。ソーラーランタンは、SDGsのさまざまな目標に貢献できる大きな可能性を持っていますね。

川江:絶滅危惧種の中には気候変動の影響を受けるものも多く、その保護のためには、気候変動対策が必要不可欠ですし、WWFの活動地域には無電化の場所も多いので、ソーラーランタンのような道具がまさに必要とされています。今後もパナソニックさんと一緒に、最もニーズの高い地域、人々に明かりを届けていきたいです。

田中:ぜひ、よろしくお願いいたします。明かりを必要としている方は世界にまだたくさんいらっしゃいます。ソーラーランタン10万台プロジェクトは2018年で終わりますが、その先のプロジェクトでも「明かりを届ける」をテーマに活動を続けていき、SDGs達成に向けて民間企業として貢献していきたいと思っています。明かりがあることで、勉強ができるようになり、社会に貢献できる人材が育ち、その人材が社会に良い影響を与えていく。明かりを通じて社会の変化につながる支援を今後も続けていきたいと思います。

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2017年10月には、パナソニック社員が川江さん、小田さんと一緒に、「ブキ・バリサン・セラタン国立公園」における森林保全プロジェクトを視察。ソーラーランタンが夜のパトロールに活用されていることを確認し、住民の方々より感謝の言葉をいただきました。