超大型台風ヨランダの爪跡を訪ねて。被災地の暮らしとソーラーランタン〜後編

2015.11.06 Field Report

2013年11月、フィリピンを襲った超大型台風ヨランダ。パナソニックは災害復興支援のために、フィリピン政府・社会福祉開発省(DSWD)にソーラーランタン1002台を寄贈しました。被災から2年が経った現地の様子をプロジェクトメンバーが2回にわたってレポートします。後編は、被災地でソーラーランタンがどのように活用されているのかをレポートします。

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支援物資を受け取れない人々へソーラーランタンを寄贈

死者6000人、114万棟の家屋損壊をもたらした超大型台風ヨランダが過ぎ去ったあと、現地では様々な支援物資が不足していましたが、空港も被災して閉鎖されてしまったため、必要な支援が途絶えている状態でした。

「第一歩は空港の瓦礫を片付けることから始めなければなりませんでした。すべては救援物資を積んだ飛行機が空港に降り立つことができるかにかかっていましたから」(DSWD担当者)

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高潮の被害を受けた当時のまま、手付かずの状態で残っているベサニー病院の旧病棟。

支援の手が次第に届き始め、フィリピンの政府機関や民間の支援団体、国連機関や国際NGOが目覚ましい働きをしました。しかしどうしても、差し伸べた援助の手からこぼれ落ちてしまう人たちが出てくるものです。

被災者には国際機関や国際NGOを通じてソーラーライトが配られていましたが、受け取ることができなかった家族や、受け取ったものが故障してしまった家族などもいました。そこでIPIバンクハウスでは、そうした43世帯にパナソニックのソーラーランタンが配られました。

日常生活で欠かせないソーラーランタン

キャンプの住民の話を聞いていくと、ソーラーランタンが今でも様々な場面で活用されている様子が見えてきました。キャンプには街灯があるとはいえ、くまなく設置されている訳ではありません。キャンプ内をよく見渡すと、暗がりが多くあることに気づきます。実際、話を聞いた住民の多くが、夜間に共同トイレに行く時にソーラーランタンを利用していると言っていました。共同の洗濯場も街灯がなく、夜の洗濯の明かりとして使うという声もありました。

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自宅の軒先で洗濯をする女性。室内から明かりが漏れるものの、手元を照らすにはランタンが役に立っている。

このように暗闇を照らすというのはランタンの第一の機能です。ただ、今回電化された仮設住宅を訪問したことで、より鮮明に見えてきたことがあります。それは生活や明かりのためだけではない、被災地ならではのソーラーランタンのニーズでした。

そのことを痛感したのは、前編にも登場したジーナさんの話を聞いた時。ランタンの用途を尋ねると、長女が勉強をするのに使っていると言いました。ランタンの明かりで勉強をする子ども―――これまで私たちが無電化地域の村々でよく見かけた光景です。

ただ、この仮設住宅にはすでに電気が来ています。天井の明かりだけでは少し薄暗くて本を読みづらいのかな、と思っていると彼女が思いもよらぬ話をしてくれました。長女のジャマイカちゃんは台風が直撃した時、目を傷つけてしまった。だから部屋の薄暗い明かりで勉強していると目に負担がかかってしまい、さらに目を悪くしてしまう。手元を明るく照らすソーラーランタンは、とても助かっているのだと。

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IPIバンクハウス内の自宅で勉強するジャマイカちゃん

そして、自宅の軒先でサリサリ・ストアと呼ばれる小さな商店を毎晩11時まで営むフレダさん。お店の軒先に吊るされたパナソニックのソーラーランタンが、陳列されたたくさんの商品を照らしています。

ここでふと疑問に思ったのが、電気代は行政が負担してくれているのに、なぜわざわざソーラーランタンを使っているのだろうということです。蛍光灯のバルブを買い足せば、それでお店の照明を賄えそうなものですが、その背景にはDSWDの方針がありました。仮設住宅に暮らすのは台風で家を失った人たちとはいえ、電気料金は税金で賄われています。そして被災者支援に回せる予算にも限りがあります。そこで生活に必要な最低限の明かりは行政が提供する代わりに、夜まで商売をしようとする時には自分で照明を確保しなければならないのだそうです。被災者に必要な援助をしつつも、過度に依存させず、自立を促そうとするDSWDの姿勢が垣間見えました。

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震災で、頭に深刻な傷を負ってしまい仕事をやめざるを得なかった夫の代わりに、サリサリ・ストアを始めたというフレダさん。店の売上が、夫婦を支える唯一の収入源になっている。

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ペディキャブと呼ばれる三輪自転車タクシーの運転手をしている男性とその家族。ソーラーランタンをペディキャブのヘッドライトとして使用している。幹線道路から一本道をそれると街灯はなく、道もでこぼこしているため明かりがないときには危うく事故に遭いかけたことがあると語ってくれた。

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屋台でフィッシュボールを売る男性は、「ソーラーランタンがあることで、その日作ったフィッシュボールを売り切るまで営業を続けることができる。早朝、妻がタクロバンの中心にある市場まで魚の仕入れに出かける時にもソーラーランタンが道を照らしてくれるので、安全に仕入れに出かけられる」と話していた。

復興の新たなステージでのソーラーランタンの役割とは

台風ヨランダの被災者に寄贈したソーラーランタンは、「暮らしを営むための最低限の明かり」から形を変え、被災者たちがいち早く自立した生活を送れるようになるための手助けとなっていました。ただ、DSWDの担当官によると、これからしばらくは、ソーラーランタンが当初の役割を再び担うことになるそうです。

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建設がすすむ復興住宅の様子

DSWDは現在、復興の新たな段階として仮設住宅に暮らす被災者の恒久的な住宅(復興住宅)への移住を進めています。これまでIPIバンクハウスなどの仮設住宅のキャンプ地は地権者と交渉し何度も明け渡し期限を引き延ばしてもらってきました。しかし台風ヨランダの上陸からまもなく2年を迎えるにあたり、復興住宅への移住を急いでいます。そこでDSWDが取った措置は、復興住宅への電線敷設を後回しにしてでも、移住を進めるというものです。9月上旬に訪問した時点で、すでに35世帯がタクロバン市の北部にある復興住宅への移住を済ませていました。そこで活躍しているのがソーラーランタンだというのです。実際に復興住宅に暮らす一家を訪ねてみると、毎日の明かりとして重宝していると、使っているソーラーランタンを見せてくれました。

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タクロバン市北部にあるヨランダ被災者向けの復興住宅で暮らす家族

もちろん、この復興住宅もゆくゆくは電化されるでしょう。しかし今回、仮設住宅で出会った人々のたくましく生きる姿を見ていると、復興住宅に電気がやってきた後にも、彼らは持ち前の創意工夫で、ソーラーランタンを様々な形で活用してくれそうな気がします。

2日間にわたる訪問を終え、一時的に無電化状態に身を置かれながらも、復興に向けてひたむきに生きる人々が暮らしの中でソーラーランタンを工夫して活用している様子に、胸があつくなりました。人々の自立に向けて、単なる明かり以上の役割を果たすことができるソーラーランタンの可能性を感じ、10万台の寄贈目標達成に向け一層力を入れていこうと決意を新たにしました。

tsugita.jpgパナソニック株式会社
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次田 寿生