カンボジア:アンコール遺跡周辺の無電化地域を支えるあかり

2014.10.31 Field Report

2014年夏のカンボジア視察では16団体を訪問してきました。そのうちの一つ「アンコール遺跡の保全と周辺地域の持続的発展のための人材養成支援機構(JST)」が昨年10月に創設したバイヨン中学校でのソーラーランタン活用の様子を今回ご紹介したいと思います。

20141031_jst_top.jpg

こんにちは。CSR・社会文化グループの星亮です。

カンボジアと聞くと、真っ先に世界遺産のアンコール遺跡を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。シェムリアップはそのアンコール遺跡群観光の拠点となっている町です。この地域は観光産業が盛んですが、実は遺跡周辺の村々はまだ電気が通っていません。また、道路や橋の整備も万全とは言えない状況です。

そんな状況にある遺跡周辺の村で「遺跡と村の共存」を目指して活動を行っているのが、地元NGO「アンコール遺跡の保全と周辺地域の持続的発展のための人材養成支援機構(JST)」です。

難民生活、遺跡修復チームを経てJSTを設立

JSTの設立者であるチア・ノルさんは、ポル・ポト時代に父と2人の兄を失い、1980年、13歳の時に難民として来日し、中学校から大学卒業までを日本で過ごしました。その後1994年に日本国政府アンコール遺跡修復チームの通訳・渉外としてカンボジアに戻ってきました。その際、近隣の村から働きに来ている修復作業員たちの村には轍のような道しかなく、川には橋もかかっていない状況に衝撃を受け、日本の知人や恩師に相談して寄付金を集め、また、自らの資金も加えてインフラ整備を始めました。これが後のJST設立につながっていきます。

20141031_jst_2.jpg

代表のチア・ノルさん。

チア・ノルさんは、2005年にカンボジアでJSTをNGOとして登録しました。その後、日本の個人や団体から支援を受けながら、アンコールクラウ村を拠点に、小学校校舎や橋の建設、文房具や本の支給などの学校教育支援、給食事業、環境保護活動、遺跡修復をおこなう人材の育成、フリースクール運営など幅広い活動をおこなってきました。

私は2012年1月に初めてシェムリアップでJSTとコンタクトを取って以来、その団体としての信頼性の高さを実感し、カンボジアにおける寄贈相手先団体のひとつとして協力関係を築いてきました。これまでJSTに寄贈されたソーラーランタンは、村のフリースクールで行われる語学授業や、外国人対象の農村ツアーで使われています。

20140616_fy2013_5.jpg

フリースクールにて。授業中、手元が非常に明るくなりノートが見やすくなったと好評です。

ついに、念願だった中学校を開校

昨年12月、JSTは新たに大きな一歩を踏み出しました。それは、バイヨン中学校の開校です。JSTではそれまで小学校の建設を行ってきましたが、「次は中学校を作ってほしい」という声が多数寄せられていたのです。調べてみると、アンコールクラウ村を含めた5つの小学校卒業生を対象とした中学校はこの地域になく、卒業生は8km以上離れたシェムリアップ市内の中学校に通っていました。また、雨期の豪雨の中を徒歩や自転車で通わなければならなかったり、通学中に事故が多発したりと、子どもたちにとって通学が困難であることもわかりました。

そこで、JST代表のチア・ノルさんと、その奥さまで一級建築士の小出陽子さんは自分たちの土地を寄付し、各方面からの支援を受け、昨年10月にバイヨン中学校を創設しました。現在、近隣の小学校を卒業した130名強の生徒が通っています。授業は朝7時から始まり、昼12時まで、全部で5時間の授業が行われているそうです。屋根にはソーラーパネルが設置されており、授業や自習のパソコンの電源として使われています。しかし照明まではカバーできないため、明かりはありません。

20141031_jst_4.jpg

採光と通気を工夫した、暑い日中も快適な校舎。

20141031_jst_5.jpg

休み時間に談笑する生徒たち。写真中央にいるのが校長先生です。

盗難が発生! 防犯と勉強環境改善で活躍するソーラーランタン

そんなバイヨン中学校で、夜間にバレーボールのネットが盗まれるという事件があり、それ以来、防犯のために生徒が交代で自習室に寝泊まりしているそうです。寄贈したソーラーランタンは、その際の生活や勉強に活用されていました。

20141031_jst_6.jpg

自習室の梁にはソーラーランタンを設置するための木枠が備え付けられており、10台のソーラーランタンが室内を明るく照らしていました。

20141031_jst_7.jpg

自習する子どもたちの手元を明るく照らすソーラーランタン

バイヨン中学校には、パナソニック エコソリューションズ住宅設備株式会社 幸田工場からの寄贈による12台のソーラーランタンが今年11月に届けられる予定であり、これら追加寄贈分も、自習室で活用される予定です。校長先生いわく、とくに雨期は日照の関係で、昼間十分に充電できないこともあるので、台数が増えればローテーションで使うことができ便利になるとのことでした。カンボジアの未来を少しでも明るいものにするために−−。目を輝かせながら勉強に励む子どもたちの将来が、とても楽しみです。